東京地方裁判所 昭和63年(タ)571号
主文
一 原告と被告とを離婚する。
二 別紙債券目録記載(1)ないし(6)、(10)ないし(12)の各債券を原告に分与する。
三 原告のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 主文一項同旨
2 被告は原告に対し、金1000万円を財産分与する。
3 被告は原告に対し、金1500万円を支払え。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 2項及び3項につき仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 当事者
原告と被告とは、昭和36年10月21日に婚姻届を了した夫婦であって、その間に長女美和子(昭和37年12月16日生、以下「美和子」という。)、および長男功平(昭和43年12月26日生、以下「功平」という。)が生まれた。
2 離婚原因-770条1項2号、5号-
(一) 婚姻に至る経緯
被告は婚姻当時、甲物産株式会社(以下「甲物産」という。)業務部に勤務し、主として海外業務に従事していた。原告は、当時同社の業務部次長の地位にあった原告の父大沢蔵之助(以下「大沢」という。)の紹介により、被告と知り合い、結婚した。
(二) 悪意の遺棄
昭和59年10月ころ、原被告は、原告のゴルフからの帰宅が遅かったことから口論となり、原告が「この家を出たい」と言うと、被告は「気に入らなければ出て行け、何もかも置いて出て行け」と言って原告を家の外に追い立てた。原告が玄関の外に出ると、被告は中から鍵をかけて、原告を締め出した。原告は公衆電話から電話をかけ、被告に「すみません、鍵をあけて下さい」と詫びたが、被告は「うちにはそんな奴はいない」と言って、電話を切った。原告は止むなく○△市の原告の実家に行き、一晩を明かした。翌日大沢の説得もあり帰宅したが、原告はこのころから、被告と離れて暮らしたいと思うようになった。
(三) 暴力行為
昭和43年から同46年まで、原被告は中野区○○で、被告の両親と同居した。このころ、被告は、原告の態度が気に入らないと言って、原告が台所において、熱湯の入ったやかんをガス台からとろうとしていたところを殴り、原告はやかんごと倒れて気を失い、熱湯を足に浴びて大火傷をした。
また、シンガポール在任中(昭和47年から同51年3月まで)、原告は、慣れない海外生活等によるストレスから膣炎にかかり、被告との性交渉を拒んだところ口論となり、被告は革のベルトで原告の尻と背中を打ちつけた。
被告は、昭和59年から同60年にかけて、以前にも増して深酒をするようになり、夜中にウィスキーが切れると、眠っている原告らに対し「てめいらのふしだらに使う金はあってもウィスキーを買う金もないのか」と大声で怒鳴って、座布団や本を投げつけた。
昭和60年1月、原告と被告とは、おせち料理に被告がサウジアラビヤ赴任中に食べ飽きていた鳥肉がだされたことから口論になり、被告は激昂して、原告の右耳付近を2、3回殴打し、そのため原告は、2、3日間右耳が聞こえなくなった。
(四) 別居とその後の状況
原告は、このような被告の態度に対して、肉体的にも精神的にも限界に達し、被告との離婚を決意し、昭和60年3月10日、別居に踏み切った。
昭和60年4月ころ、原被告は○○○○○○ホテルで話し合いの機会をもったが、被告が高圧的で、従来の生活態度を反省する素振りを全く見せなかったことから、話し合いは不調に終わった。
また、原告は同年10月17日、東京家庭裁判所に離婚調停を申立てたが、被告が離婚に応ずる意思を全く見せないことから、同年6月5日原告は右申立を取り下げた。
(五) 以上のとおり、原被告の婚姻関係は、被告の悪意の遺棄、暴力行為7年余りにわたる別居生活等により、破綻したものというほかはないから、原告は、民法770条1項2号、5号に基づき、被告との離婚を求める。
3 財産分与
(一) 原被告が婚姻後取得維持してきた財産は、以下のとおりである。
(1) 別紙物件目録三記載の中野区○○所在の建物(以下「中野区○○の建物」という。)
建物建築費約2000万円からローン残債務を控除して、その2分の1を現在価額と見て、約金500万円。
(2) 別紙物件目録一及び二記載の○○○○別荘地(以下「○○○○別荘地」という。)
一坪あたり4万円として300坪で時価約2000万円。
(3) 株式
子シャッター 5000株 時価約590万円
(4) 債券類
ア.別紙債券目録(10)、(12)、(14)、(19)の国債金350万円
イ.同(20)の中国ファンド金93万2197円
(5) ゴルフ会員権
ア.桐カントリークラブ 1500万円
イ.梅カントリー倶楽部 1100万円
ウ.桜カントリークラブ 400万円
(6) 宝石類
ア.サファイヤ指輪 33万円
イ.ダイヤ指輪 46万円
被告は、原告に対し、右の夫婦共同財産の2分の1程度の財産を分与するのが相当である。
(二) 原告特有財産
ア.別紙債券目録(1)及び(2)、(7)、(9)の丙銀行B債券金480万円
イ.同(11)、(13)、(15)ないし(19)の国債金510万円
ウ.松カントリークラブ会員権
(三) 被告特有財産
ア.中野区○○の借地権
イ.中野区○○○の土地
4 慰謝料
以上のとおり、原被告間の婚姻関係は、前記悪意の遺棄、暴力行為等の被告の責めに帰すべき事由により破綻したものであるから、被告はこれによって受けた原告の精神的苦痛を慰謝すべき義務があるというべきところ、前記破綻に至る諸般の事情に照らして、右苦痛は金500万円をもって慰謝するのが相当である。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2について
(一) (一)の事実は認める。
(二) (二)の事実は否認する。
(三) (三)の事実のうち、原告の足の一部に熱湯がかかったことがある点は認めるが、その余は否認する。被告は、子供の教育のことで原告に注意したいことがあり、子供の前を避けて台所で話をしようとしたところ、原告が「あんたに教育の何がわかるのよ」と叫び、やかんを持ったまま振り向き、その勢いで熱湯が被告にかかりそうになったため、とっさに左手ではらったところ、原告の足にかかったものであり、原告は被告に殴られて気を失ったものではない。
3 同3について
(一) (一)の事実のうち、中野区○○の建物及び○○○○別荘地が存在することは認めるが、その余は否認する。
(1) 中野区○○の建物について
建築費用総額1750万円から経年による減価率を6割として現在価値は700万円であるが、ローン残債務額が、別居時である昭和61年4月1日の段階で1162万5996円あり、合計して552万円程の負債があることになるので、積極財産とはならない。
(2) ○○○○の別荘地について
右は被告の特有財産であり、財産分与の対象とはならない。
また現在の価値についても、最高価額で考えて、一坪当たり4万円として時価1200万円程度になるに過ぎない。
(3) 株式について
現存するものは辰の5500株のみであるが、全て被告の父から相続したものか、その変形であって、被告の特有財産である。婚姻後形成された財産として認められるのは、国債と竹ゴルフ会員権のみである。
(二) (二)は否認する。
(三) 中野区○○の借地権と中野区○○○の土地が被告の特有財産であることは認める。その余は知らない。
(四) 原告は、別居に際し、高価な宝石類、美術品、骨董品等を多数持ち出した。
4 同4は争う。
三 被告の主張
仮に長期間の別居により、原告と被告との婚姻関係が破綻しているとしても、その原因はほとんど原告にあり、破綻を回復し難い程度にまで至らせたのも、ただひたすら離婚を主張して、話し合いを拒絶してきた原告の態度にあるから、原告が離婚を請求するのは許されない。原告は被告の出張中に一方的に別居を開始し、それ以後は原告に居住所さえも知らせることを避けているのであって、本件婚姻が破綻状態に立ち至ったのは、もっぱら原告の責に帰すべき事由によるというべきである。
第三証拠
本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
別紙 物件目録等<省略>